lumiの日常綴り

人間が一番おもしろい!

形のないクリスマスプレゼント

 

あれは、小学6年のクリスマスイブ。友達に誘われて参加した、一日限定のボランティア合唱団。30人ほどの小中学生が歌いながら街をそぞろ歩くそのイベントで、開始早々私は無力感に苛まれていた。

 

どれだけ精一杯声を張り上げても自分の歌声が聴こえないのだ。みんなの圧倒的な声量に飲み込まれてしまう。もはや音程が合っているかどうかすらわからない。

 

だが、合唱団全体では明確な抑揚もあり、耳に心地良い響きだった。どうすれば聴いてくれる人に和んでもらえるのか…。みんなが考えながら歌っているのがわかる。落ち込んでいる場合じゃない。私も頑張らなくては。

 

身を切るような寒さに耐えながら歌った曲数は6曲✕5回。いよいよフィナーレという際の、嘘みたいなタイミングでそれは起こった。突然、スポットライトを浴びたかのように、自分の歌声だけが浮かび上がる感覚に襲われたのだ。みんなの合唱も、ぼんやりだが微かに聴こえている。

 

なんだ。私の歌声、ちゃんとここにあったんだ。小さな小さな声だけど、確かにこの中に存在していたんだ。

 

気付けば、最後はみんなが肩を寄せ合い、泣きじゃくりながら歌っていた。もしかしたら、自分の歌声が聴こえなくて不安なのは私だけじゃなかったのかもしれない。みんなも私と同じように、小さな小さな1人だったのかもしれない…。

 

次の日の朝、「おはよう」と起きてくると、賛美歌を口ずさんでいた母が笑った。「lumi、すごいしわがれ声になってるよ!」

 

そういう母も鼻声だ。後で友達が教えてくれたのだ。「lumiちゃんのお母さん、合唱団の後ろからずっとついてきてたね!」と。

 

そんなんじゃ、探偵にはなれないよ、お母さん。でも、お母さんもそこにいてくれたんだね。少なくとも一人には、私も歌を届けられていたんだね。

 

「今日の洗濯物は私が干そう。」

心の中でそっと呟いた、懐かしいあの日のクリスマス。

 

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