大人はいいな。大人になったら絶対にあれをしよう、これをしよう。その大半は、お金でできることだった。
時は経ち、自分で稼いだお金を手に、好きな服を買い、好きなものを食べ、旅行もした。
だが、夢見ていたこととは何かが違った。子どもの頃に憧れていたことを、ようやく実現できているのに。
そんなある日、ディスプレイに魅かれてふらっと入った小さなセレクトショップ。一枚のスカーフが目に入る。母の顔立ちに似合うと確信し、迷いなく購入した。
「ありがとう。でも、誕生日でも記念日でもないのにどうしたの?」母は不思議そうに尋ねた。「どうしてかな…。」自分にもよく分からなかった。
ただ、満たされていた。鏡の前でスカーフを首に巻き、はしゃぐ母を見て、私はただ満たされていたのだ。
旅行へ行く。フィレンツェの革製品の店で父が好きそうな良質のベルトを見つけた。この皮の匂いごと父に届けたいと思った。その時点でもう満たされていた。贅沢だと感じた。こんな時間が持てていることを。
なかなか終わらない夏休みの宿題を前に、きっと世の子ども達は無邪気に「大人はいいな。」と思っていることだろう。私もその頃はまだ、「大人とは、自分の時間そして自分の欲求を好きに満たせる存在」。そうイメージしていた。
だが、大人になってみると、大切な人の笑顔を想像すること、幸せを共有したい誰かがいること。それが一番の贅沢なのだと気付いた。子どもの頃の私に語ってみても、ピンとはこないのだろうけど。
だが、いつか必ず気付くときが来る。そして、思うのだろう。きっと、この気持ちは「大人」になった私への贈り物なのだと。
